適宜、更新します。この用語集はアカデミックなものというよりは、私の書くジャーナルを読むための一般的な理解の助けを目的に書かれたものです。

_人物

【あ行】

ジャン・ウリ Jean Oury

制度による精神療法のメッカとも言えるラ・ボルドクリニックを作った精神科医。理論と実践の基礎にフランソワ・トスケィエスとジャック・ラカンがいる。

ヴェルナー・ヴォルフ Werner Wolff

1904-1957。ドイツのゲシュタルト心理学者。トスケィエスに、病院を動いているゲシュタルトと捉えなければならないと示唆した人物。

【か行】

フェリックス・ガタリ Félix Guattarri

ラ・ボルドでウリと働いた盟友。ジル・ドゥルーズとの共作で有名。横断性 transvérsalité などの概念も彼によるもの。フランスでも評価は分かれており「偉大なる問題児」って感じ。私は割と好き。

【さ行】

ジャック・スコット Jacques Schotte

ベルギーのルーヴァン・カトリック大学の精神科医・分析医。アンリ・マルディネをウリに紹介した人物でもある。制度による精神療法におけるレオポルド・ゾンディの運命分析の理論的貢献は、彼ら「ルーヴァン学派」によるものが大きい。

【た行】

フランソワ・トスケィエス François Tosquelles

制度による精神療法を始めた精神科医。カタルーニャからフランスへ1940年に亡命し難民/秘書としてサン・タルバン病院に迎え入れられる。「フンっ」と話す途中にいう癖があり、ムッシュ・フムと呼ばれたりしている。

フランク・ドログール Frank Drougoul

パリで開業している精神科医。医師一年目でラ・ボルドで働き、人生を捧げることになった。P.I. の雑誌『Institutions』の編集員でもある筆者の先生。本人は筋金入りのトロツキスト。出会って数秒で、敬語で話されるのは嫌いだからタメ口で話してくれと言ってくる怪・快人物。

【な行】

【は行】

ポール・バルヴェ Paul Balvet

フランスの精神科医。本人はトスケィエスと違い、やや保守よりの人物らしい。何にせよサン・タルバン病院にトスケィエスを迎え入れたのは偶然にして最大の功績。サン・タルバンで作られた治療的クラブの名前にもなっている。

【ま行】

アンリ・マルディネ Henri Maldiney

フランスの現象学者。超受容性/超可能性などの概念やゲシュタルトに関する考察でウリに多大な影響を与えている。

【や行】

【ら行】

ジャック・ラカン Jacques Lacan

フランスの精神分析家。彼のパラノイアに関する博士論文は、1940年当時はフランスよりもカタルーニャのペール・マタ研究所でトスケィエスらによって読まれており、初期の制度による精神療法にとって「羅針盤」となっていた。

_ものやこと

【あ行】

異質性 hétérogénéité

異なるもの(ヘテロ)から構成(ジェネ)されているという意味。トスケィエスが重視した概念。彼は、他者との違い、それ自体を精神療法に利用しようと考えた。そのため病院のなかに生じる制度 institutionが可能な限り異質なものから成り立っていることが望ましいと考えられている。

言うことと言ったこと le dire et le dit

言ったことは、「ごはんが食べたい」「私は病気じゃありません」など、口に出されたこと。発せられた言葉。

言うことは、広くは言語の構造それ自体のことだが、何も言わないことも含め、言葉を発することができる可能性、それ自体のこと。

【か行】

解釈 interpretation

解釈とは、「あなたは母親への〇〇が△△で、そこには父のかくかくしかじか」と精神分析的知見をつらつらと説明することでは決してない。ほんの些細な出来事における出会いによって主体が別の次元に移行したことを「感知」すること。出会い rencontre・登記 inscription・出来事 évenement

偶然:オートマトンとテュケー

コレクティフ collectif

ウリの概念。ある集団のなかでそれぞれが「同じ」人としていながら、かつその特異性によって「異なる」人として区別されている状態。

原抑圧 le refoulement primordial

勉強中

原初的メタファー métaphore primordial

【さ行】

制度 institution

人が定期的に集まることで生じるものごと。ミクロ:個人とマクロ:国家・社会のあいだのメゾ:中間の次元の領域にあるものごと。▶︎屯

制度による精神療法 la psychothérapie institutionnelle

「患者を治療する前に治療環境を治療しなければならない」という考えのもとフランスで発展した精神医療の運動。ジャン・ウリ、フランツ・ファノン、フェリックス・ガタリなどがトスケィエスのもとで学んだ。

精神療法 la psychothérapie

ウリによれば、精神療法とは「精神分析の概念を用いたアプローチ」のこと。精神分析の概念とは、転移・同一化・無意識の主体などなど。

【た行】

屯(たむろ)

日本語の制度という語の意味が、institutionとあまりにもかけ離れているので筆者が考えた私家版の訳語。屯は、人が集まっている様子と同時に漢字の成り立ちからも地面から何か芽生えているのを表している。そのため上記のinstitutionの定義に近い日本語と言えよう。また屯は屯服や駐屯地など「一時的な」という意味もあり、恒常的に存在する施設としてのétablissementとの対比としても悪くはない。

中核性精神病と辺縁性精神病 Kernpsychose – psychose nucléaire – et Randpsychose – psychose marginale – 

ジゼラ・パンコウがクレッチマーとともに用いる概念。寸断された身体のようなものでも、一貫性のある断片化なのか、それとも一貫性すらない分裂なのか。

同一化 identification

「君は僕だ!」ヒステリー性の同一化。「咳を取り込んでしまう」一の線との同一化。そして原初的同一化が体内化。ウリの図では、この三つの同一化は独立別個のものではなく三つ巴のような形をしている。

【な行】

【は行】

雰囲気 ambiance

ウリ曰く、雰囲気とは構造の現れであるという。施設établiissementの雰囲気=管理的な空気とは対照的なのが治療的な雰囲気であるところのコレクティフであるが、雰囲気は自動的に作られるものではない。コレクティフを作り出すもっと重要なオペレーター、それが治療的クラブである。

【ま行】

【や行】

要求 demande

「水が飲みたい」と誰かに要求する、つまり「言ったこと」。その要求が通れば、そこで終わり精神療法はなくなる。

欲望 désir

失われた対象(オブジェプチタ-と呼ばれる)によって駆動されるもの。私たちにはそれがなぜそうなっているかはわからない。要求を迂回することで欲望の方へ行くことこそ、制度による精神療法で求められていること。

【ら行】

ラ・ボルドクリニック la borde

パリから電車で2時間弱とそこから車で30分くらいの田舎町、クーフ・シュヴェルニにある私立の精神病院。

ラ・シェネ La Chaisnae

ラ・ボルドに影響を受け制度による精神療法を始めた病院の一つ。正式名称はシャイユクリニック。ガタリが、ラ・シェネに滞在したときに当時の院長の奥様と良い仲になったことが、フランソワ・ドッスの『交差評伝』で暴露されている。

倫理 éthique

要求を遠回りし欲望の方へ向かうこと。この精神療法の倫理がなければ、単なる無法地帯になってしまうだろう。